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SOP研修【佳穂】東京・高知

  • 研修関連
  • 2025.10.21|阿部佳穂

SOP研修とは

―研修の目的―

今回の研修は、担当する案件で木造が続いたことを契機に、木造建築に関する知見を改めて深めたいと考えた。

また、学生の頃から憧れていた内藤廣氏の建築を、実際に体感できる機会を持ちたいという思いもあった。図面や写真だけでは伝わらないスケール感や光の取り込み方、素材の質感を自分の目で確かめたいと考え、その代表作が建つ高知と、移動の途中にある東京を研修地として選定した。

―建築家・内藤廣なんでも手帳と思考のスケッチin紀尾井清堂
内藤廣氏の約40年分にわたる手帳が年代別に展示されており、圧倒的な分量と記録の緻密さに見ごたえがあった。
自分自身も、日々の考えや気づきをメモなどの形で蓄積していきたいと感じた。
建物自体は、「使い方ができあがってから考える」という、あらかじめ用途を定めない前提で設計されており、自由で実験的な姿勢が印象的だった。
コンクリートのキュービックをガラスで覆う外観は大胆でありながら、内藤氏らしい繊細なディテールが随所に見られ、非常に興味深い建築だった。

赤鬼と青鬼の場外乱闘in渋谷―
内藤廣氏の学生時代の作品から代表作、そして実現に至らなかったアンビルドの計画までを一望できる展示会だった。
模型と図面に加え、「赤鬼:夢想型」と「青鬼:現実型」の対話形式で設計の背景が解説されており、思考のプロセスを追体験できてとても興味深かった。
最近は社内でも3D上での検討で完結してしまうことが多いが、改めて模型を通して空間を手で確かめながらスタディすることの大切さを感じた。

―高知駅―
高知県産のスギ材を多用した木造アーチが印象的な駅舎だった。
大屋根はスパン38.5m、長さ60mのハイブリッド構造で、ダイナミックで開放的な空間をつくり出している。
見る角度によってさまざまな表情を見せる建築で、構造美と素材の魅力が調和した印象的な作品だった。

―雲の上ギャラリー―
大自然の中に突如現れる、木組が特徴的な建築だった。
強いインパクトを持ちながらも、周囲の山並みや景観と調和しており、静けさの中に確かな存在感を放っていた。
エントランスから入ってエレベーターで下階に降り、出口へとつながるという動線計画も斬新で、構成上の特徴となっていた。

―雲の上ホテル 別館・マルシェユスハラ―
外観には藁ぶき屋根が用いられており、梼原の伝統的な技術を取り入れたデザインとなっていた。館内も木材が多用され、藁の香りが感じられるなど、全体的に温かみのある雰囲気が演出されていた。
内部のディテールにおいても、金物の見せ方や配線処理など、機能要素を目立たせない設計上の工夫が随所に見られ、非常に参考になった。

―雲の上の図書館―
地元産の木材をふんだんに使用した、木のぬくもりあふれる建築だった。
ガラス張りの1階部分からは柔らかな光が差し込み、まるで森の中の木漏れ日のような印象を受けた。開放的で自由な空間構成となっており、館内では子どもたちがのびのびと動き回る姿が見られた。ボルダリングスペースも設けられており、図書館でありながら身体を動かすアクティビティも可能な構成となっている。

―牧野富太郎記念館―
今回の研修で最も行きたかった場所であり、実際に訪れてその空間を体感できたことは非常に印象深かった。
「自然の中にとけ込む」というコンセプトのもと、建物は低層で構成され、三次曲面の大屋根が地形と呼応するように伸びやかにかかっていた。屋根によって外と内の境界が曖昧となり、心地よい半屋外的な空間が形成されていた。
風や光の取り入れ方、外構計画、植栽の見せ方に至るまで繊細に考えられており、「植物とともに過ごす建築」というテーマをまさに体現していると感じた。 

模型や図面、展示では伝わりきらなかった空間のスケールや質感を、実際に体験を通して肌で感じ取ることができた。
今回の研修で得た知見や体験を、今後の設計提案や実務に積極的に活かしていきたい。